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キャッシング 比較の検索と比較

O社長は典型的なワンマン経営者で、絶対的な人事権を握って会社を支配していました。
取締役といっても、ほとんどイエスマンです。
O氏の全盛期にM社を別件で取材した時、事務所の壁にO社長の肖像写真が額に入れて飾られているのを見ました。
どこかの独裁国のようで異様に感じたので、よく覚えています。
 M社の属すIグループでも、O社長の評判の悪さを問題視するようになりました。
このまま放置しておくと「I」の金看板に傷がつきかねないからです。
グループの長老でM社の非常勤取締役をしていたG氏‐I銀行取締役名誉会長(当時)が直接、いさめに赴きました。
しかしO社長は聞く耳を持たず、けんもほろろにG氏を追い返しました。
 O氏を恐れていた役員たちもさすがにこれ以上ついていけないと思うようになり、G氏を押し立ててクーデターを起こすことでまとまったのです。
シナリオ通り取締役会で所定の議題が一段落したところで、社長解任の緊急動議を出し、一斉に起立して採択しました。
虚をつかれてあっけにとられたO氏が発した「なぜだ」が、その後流行しました。
 この時のG氏の非常勤取締役という立場は、今の「社外取締役」とは性格が異なります。
大企業では、メーンバンクや企業グループの実力者を名誉職的に非常勤取締役として招く例が昔から見られました。
G氏はそうした位置付けで、まさか社長解任劇に立ち合い、生え抜き役員たちの拠りどころになるとは、夢にも思っていなかったはずです。
 後にG氏を取材すると、取締役会のあり方について示唆に富む話をしてくれました。
「米国では取締役と業務遂行に当たる役員が分かれているが、日本の会社では取締役といっても社長の部下として仕事をする人たちなので、社長を監督しろといっても無理だ。
社外の取締役も私一人では、限界がある」。
M事件は二十年以上も前の話で、残念ながら企業全体の問題としてコーポレート‐ガバナンスのおり方を議論する契機にはなりませんでした。
 G氏の指摘は、・取締役会が社長を監督するという本来の役割を果たす体制になっていない・社外取締役は少数では力にならない、という点に整理できます。
会社組織の頂点に座る社長がオールマイティーで、それを制御する有効な仕組みが事実上ない、ということを言っているわけです。
社長が暴走したら、とんでもないことになると、M事件は警鐘を鳴らしました。
 しかしそれで戦後、うまくいっていたのはなぜでしょうか。
日本の企業は戦後の焼け跡から出発して驚くべき発展を遂げ、日本は経済大国になりました。
逆説的ですが、社長がオールマイティーだったから、よかったのです。
復興期、高度成長期、石油ショック後と、折々に経営者がリスクをとって思い切った判断ができたから、チャンスをものにできたのだと思います。
 優れた経営者がリーダーシップを自由に発揮できれば、好結果が期待できます。
起業家精神が何の制約も受けずに済むからです。
株主から付託を受けて経営する上場企業の経営者は、独善的なことは許されません。
しかし細々と条件をつけて縛ると、経営が消極的になって、企業の発展が妨げられます。
 戦後、日本は幸運だったのでしょう。
所有と経営の分離が実現し、経営者のフリーハンドが許される体制になり、それを舞台に優れた人材が企業の経営に当だったので、驚くべき成功を収められたのです。
うまくいく時は、やることなすこと、すべて当たります。
 ただ忘れてならないのは、戦後の名経営者は単なるテクノクラートではなく、その多くは経営のおり方について思索する経営思想家でもありました。
それが経営者としての倫理観の裏づけになっていました。
 偉大な財界人が貫いた「自己責任経営」 例えば、H社のS氏です。
戦後屈指の財界人として知られ、石油ショック後の大幅賃上げの流れを鎮静化するうえで大きな役割を果たしました。
経営者としては戦時中、四十歳で専務に抜擢されて実質的に社長代行を務め、戦後、四十一歳で社長に昇格し、日清紡を業界トップクラスの競争力を持つ会社に発展させました。
六十歳で会長に昇格しR社長にバトンタッチするという具合に出処進退も明快な経営者でした。
 S氏は、所有と経営の分離を踏まえて、専門経営者の存在意義を掘り下げ、「企業公器論」を展開しています。
『S武論集』に基づいて、その論理を追ってみましょう。
ちなみにS氏はスピーチや寄稿などの原稿はすべて自分で書いていたそうです。
 さて専門経営者の台頭については、こう書いています。
「資本主義の発展につれて、この両者(資本家と経営技能者)が次第に分離して行くことが資本主義の近代化合理化の特徴として現れ始めて来たのである。
かくして資本家にあらざる経営技能者が、複雑な大規模企業の経営専門家として、独自の生産的意義を資本主義生産組織の内に占めるに至ったのである」 そして「経営技能者は、会社代表であるが資本の代表者ではなく、企業そのものの代表者であり、企業自体の観点を実現し得て、経営の近代化と民主化を図り得ると信ずるものである」と、専門経営者の役割を述べています。
また「経営者精神の第一は、われわれ経営者がその事業を『真に公器としてこれを預かる』の理念に徹することであります」と書き、経営者の崇高な使命を強調しています。
 行政への依存やカルテルを嫌ったS氏は「自由競争原理」を信奉して「自己責任経営」を貫きました。
有名な勲章辞退の理由を尋ねましたら、「男子が一生かけた仕事を役人なんぞに一等、二等と格付けされてたまるか」と笑っていました。
これはS氏が薫陶を受けた元N社長のM氏譲りのものです。
M氏は優れた経営者であるとともに、日本工業倶楽部の理事長を務め財界の巨頭の一人でしたが、勲章をもらいませんでした。
 S氏の次に社長を務めた露口氏も当然のことながら自由競争主義者でした。
石油ショック後、繊維業界も不況に苦しんでいたころです。
紡績メーカーが不況カルテルを結んで共倒れを防がないと失業者が出て困るのではないかとの問いに、きっぱりとこう答えました。
「競争の結果は企業の自己責任だ。
倒産する会社に勤めている従業員も、厳しくても結果を受け入れなければならない」 運輸省の規制と戦って全国ネットの宅急便事業をつくり上げたY運輸の小倉昌男元社長は若いころに日清紡の経営者の講演を聞いて、大いに触発されたと語っています。
たぶん露口氏の講演と推測されます。
「城は落ちるべし」という言葉に感銘を受けたそうです。
城主がぼんやりしていれば、城は必ず落ちる。
会社も経営者が怠けていれば、必ずつぶれるという戒めを聞いて、小倉氏は経営者のあるべき姿勢を改めて肝に銘じました。
 こうした精神の持ち主だから、小倉氏は監督官庁の運輸省に首根っこを押さえられている運送業者でありながら、運輸省の業界保護行政を一つ一つ崩すという困難な仕事をいとわなかったのです。
M社のO社長の無理難題が目に余り、M社との取引を自ら断つたというエピソードもよく知られています。
これもなかなかできることではありません。
 プロの経営者は、専門的な職業能力を身に付けることはもとより、自らを律する厳しい職業倫理も必要です。
戦後の激動期を乗り切ったと思ったら、資本自由化による外国資本の攻勢に脅えるという具合に、緊張感が続いているうちはよかったのです。

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